Archive for ‘『それはまるで舞台のよう』’

July 25th, 2011

『何でもありの迷宮』

プロフェッショナルな世界のこと6〜バンドームの謎

Place Vendôme、プラスバンドームはビジューの世界的な中心地。パリのど真ん中に位置し、有名どころメゾンのブティックが軒を連ねるこじんまりした四角い広場。

そのバンドームのすぐ横に郵便局があり、便利なのでたまに利用する。働くアトリエが広場にほど近く、お昼休みの間に手紙や小包を出しに行く。でも、ついでだからといってウインドーを見ていると、お弁当を食べる時間が無くなってしまう。だから広場を一気に横切って行く。その時肌に感じるのは、バンドーム広場のミステリアスな空気感。吹き抜ける風と歩くと、広場に重ねて存在している別次元の世界へ行ける気がする。

…広場の中央には、目に見えないガラス張りの迷宮がある。迷宮は部屋や通路が入り組んだ迷路のような建物。ラビリンスといえばギリシャ神話の中でミノタウルスが閉じ込められていた。心の目に映る迷宮の壁をたくさんのツーリストがすり抜けて行くのだが、私にはむしろ彼らの方が透けて見えてくるから不思議だ。何も無いはずの所の、空気の密度がやけに濃い。

関わる人の憧れや思い入れをたっぷり吸い込んで、白昼夢をみせるバンドーム広場だが、働くのは生身の人間。私と同じく、怠け者で適当で文句ばっかり行って、次のバカンスを指折り数えてる。

現実の世界でお昼ご飯を食べ終わると、生のバンドーム白昼悪夢を見る事が出来る。やはり謎に満ちていて、どうしたらそうなるのか理解できない、筋のおかしな話が満載。品番は消え、文字が逃げる。計画はゲームのごとき、ルールは不明。

バンドームの世界にはラビリンスの現実が混ざり込んでいる。

July 20th, 2011

『それはまるで舞台のよう』

プロフェッショナルな世界のこと2〜J**、top top

昔、パフォーマンスに関り、舞台美術をしていた頃にぼんやりと思った。”スペクタクルみたいな”展覧会 があれば面白い。でも、具体的なアイデアは何も無く、イメージだけがあった。まだビジューに関わる前の話。”スペクタクルみたいな”それは、こんなかんじ。

舞台はお客さんとの待ち合わせ、その時に集うかんじが喜びとなる。舞台上から、舞台裏から、そして客席から、それぞれの気分が一時に持ち寄せ合わされる。外界としばし隔離された劇場の、そんなかんじに特別な音色を聞く思いがする。それはもうスペクタクル。その日の興行の内容をも大きく包みこんでいる空気感を味わうのが好き。

J**のブティックを訪れた時、その昔の思いつきが頭をよぎった。そこはブティックというよりも劇場のよう。部屋は薄暗い小さな重厚な箱、ショーケースは一切なく机と椅子が置かれている。机の上に光が灯り、劇場内のごとき部屋をわずかに照らす。そしてお客様が来場し、幕が上がる。奥から次々にビジューが現れ、スポットを浴びてキラリ、深い陰を伴って浮かび上がる。お客のため息が聞こえる「マ•ニ•フィック…」。机を舞台にきらびやかなスペクタクルのはじまりはじまり…。

でも実はこのJ***のスペクタクル、頭の中にあるだけでまだ見た事は無い。私はお客ではなく舞台裏に訪れただけだから。暗くて埃っぽい、薄汚れたような壁の部屋は、まさに幕が開く前の白々した劇場の空気を持っている。机の上の照明はまだ点かず、隣の部屋から開いたままの扉ごしに無造作に光が差し込むのみ。机の隅っこに鉱物の原石や珊瑚。そして、このさら奥にも部屋があるようだが、扉はいつも開かずじまいで中はわからない。やはりビジュー達の控え室なのだろうか?

それでもやはり想像力は掻き立てられ、勝手に展開したスペクタクルは夢のような…そのまま幻想の世界。それだけ、J**のビジューは詩的な響きに満ちている。

ちなみにこの世界の要を奏でている旋律は、ここからとても近い所から、ここよりもっとはっきりと聞こえて来るのだが、なぜかそんなものは無い事になっている。”すごいのは一人”との演出なんだな。とにかくJ***J**、top top

プチフランス語講座:
le spéctacle[スペクタクル](光景、興行、演出)、magnifique[マニフィック](素晴らしい)