『アトリエのチァイムは壊れている』

アトリエ2

ところでアトリエの入り口にあるチャイムは壊れている。強く念を込めて押すと鳴る。それでも鳴らない時はドアを手でたたいて呼ぶ。アトリエにはたくさんの素敵なお客様やがいらっしゃるのだがドアをばんばんやらないといけないのはなんとも残念だ。

一般にビジュー関係のアトリエやラボや地金屋さんは出入りする人をチェックしている。入り口は防犯カメラと2重扉のシステムで一旦扉に挟まれた空間に閉じ込められて、カメラでチェックされてから鍵が解除され中に入る。
こういった所は街の真ん中にあるのだけれど、大抵隠れていて外からはわからないし知らないと辿り着けない。私の通うアトリエもしかり。バンドーム広場のすぐ近くの古いアパルトマンの広い一室だ。

アトリエのチャイムは常に壊れたままだけど、最近防犯カメラが付いた。防犯面では改良されて良いのだが、少し残念なこともある。というのは、アトリエでは誰が来たのかわからないまま入り口を無防備に開けないことになっている。カメラが無い時代はモニターで確認することが出来ないので、扉越しに覗いて確認していた。アトリエの扉は金属にスリガラスが嵌め込まれていて、上部は透明のガラスになっている。アトリエを訪問する側からしてみると、チャイムを押して外で待っていると扉越しにギョロリと誰かが覗く目が見えて、入り口がおもむろに開けられる。それだけのことだけれど、”ギャング映画みたいだなあ” なんて思って気に入っていた。面白かったのに。

チャイムというと面白いのはJ**。ある日アトリエでお使いを頼まれた。そういうのは極力さけたいのだがしかたない。私の拙いフランス語のせいでややこしいことになったら困るじゃないか。責任はもたないよ!それによりによってあのJ**へ届け物。知る人ぞ知るトップトップのジョワイエリーだ。アトリエから徒歩数分、ここも少し隠れた所に。ブティックのウインドーなど見ながら到着したJ**のブティック。はあ、出発前に聞かされたとおりで。ブランド名の看板はなし、ウインドーもなし、扉さえもどこにあるのか。何とも愛想のない黒っぽい壁に小さなお花の彫刻が一輪ポッチリ。そう、これがチャイムです。どうぞ壊れてませんように、ピンポーン。
その後日談、あのJ**初訪問から1年くらいして例のお花をアトリエで発見!壊れたらしい。お花が無いと入り口はどこにあるのかわからないし、本当に何にもない壁になってしまうんだけど…どうなったのか、間違っても素敵なお客様を外で待たさないでくださいな。

プチフランス語講座:joaillerie [ジョワイエリー](宝石を細工する技術、商売、店 宝石そのもの)
Place Vendôme[プラス ヴァンドーム](バンドーム広場)


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