『ビズとかけてジダンと解く』

アトリエ3〜attention au coup de boule!

朝、アトリエに来ると目にするのがビズ。おはようのあいさつだ、これは欠かせない。ビズは頬と頬を交差に重ねてキスをするかしないかのかんじで ”チュッ、チュッ”と音を発ててやる。ビズは生活の中に溢れていて、仕事の仲間や、ボスや、友達や、家族や、親戚間でも頻繁にビズをする。おはよう、こんにちは、久しぶり、さようなら、お休みなさい。そして、おめでとう、ありがとう。親しみを込めたあいさつだ。異性間では自然に行われるし、同性間でも有りだけれども男性同士の場合、握手に振り返られることも多い。

ビズで大変なのは、そこに居合わせた人数が多く、さらに久しぶりに皆が一同するような席。皆が一周りチュッチュッとするにも単純に時間がかかる。もちろんビズにはおしゃべりが伴う。特においとましましょうとなってからが長い。帰る間際になってるのに、誰かが新たな話題で話し始め、やっと終わったかと思いきやまだビズが一周りしてなくて、次の話題が始まって…終わらない。帰れないんじゃないかと思ってしまうくらい長い。フランス人の立ち話の長話好き、これにはビズの習慣が多いに関与しているに違いない。

さて、アトリエには素敵なお客様の他に、石留め屋さんや、彫り師さん、モデリストさんといた仕事関係者が多く出入りする。彼らもアトリエへ来ると皆にビズで挨拶して回る。ビジュー制作に携わる仲間として、一気に距離間が縮まる気がする。
ところで、アトリエの間取りを俯瞰してみると作業机が環状態になって並べられている。フロアを完全に二つに隔てない分厚い壁が中央にあり、この壁沿いに作業机がぐるりと沿って並ぶ。
アトリエの皆にビズで挨拶して回るとは、文字通りアトリエをぐるりと一周することになる。”ボンジュール、サバー” チュッ、チュッ。
石留めのロロンは恰幅の良いムッシュー。彼もアトリエを一周皆にビズして回るのだけど、その時私は思わず想像する。アトリエは薄暗い水族館、おおきな楕円形の水槽になる…彼の黒っぽい服装とゆったりした雰囲気、それに加えてギョロリと大きな丸い目は水族館にみる魚の静謐な姿も連想させる。実際、彼自身がそう言うのだから仕方ない。ひとしきり長話がすむと”さて、回遊してくるか”と言って水槽の反対側へ消える。

もうひとつ忘れてはいけない話がある。アトリエで私は、毎朝フランス式にビズと日本式に挨拶をする。文化交流というわけだ。まず、フランスでは朝も昼もボンジュール一本だけど、日本では「おはようございます」と「こんにちは」を時間帯で使い分ける事を説明した。その結果、遅くアトリエへ着いた時などに「おはよう」と言うと「もうこんにちはの時間だ」とやられることになってしまった。でも面白いから良しとしよう。また、「こんにちは」の挨拶と共に手を合わせられたので、日本ではこのようにやるのだと、頭を下げてみせた。この時「こんにちは〜さん」と相手の名前を付け足したのが良くなかったのか、うまくタイミングが合わないで頭がぶつかってしまった。折しも時はサッカーの世界大会決勝戦で、フランス代表のジダンがまさかの頭突きでレッドカードをくらったばっかりだった。ちなみに、フランス語で頭突きをクッドブールと言う。このクッドは一撃というかんじ、ビジュー制作時にもクッドゴムというように使う。ゴムを少し使う、でも効果的と言う意味だ。それ以来アトリエでの日本式挨拶は「こんにちは」、ペコリとおじぎして、そして「注意して!クッドブール!」に落ち着いた。そう、もちろん頭突きする。色気なし。でもやっぱり面白いから良しとしよう!

”ボンジュ〜ル!ビズ” そして、「こんにちはー!クッドブール!」

プチフランス語講座:bonjour ça va? [ボンジュール、サバ?](こんにちは、元気ですか?)
attention à~ [アトンシオン](〜に注意する)
le coup de boule  [クッドブール](頭突き)


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