アトリエ4〜繰り返えす日々、四季は巡り
アトリエでは美味しいものを皆でたべるのが好き。誰かが気が向くと、フラリとパンやチョコレートを買って来て皆に振る舞う習慣がある。人気パティシエのマカロン、自宅で焼いたタルトやパイ、旅のお土産の地方菓子…私はアトリエで仕事をしつつフランスのお菓子に親しんでいった。
朝はクロワッサン等のビエノワズリ。又はシューケット。ビエノワズリはパイ生地のパンで主に朝食に頂く。シューケットはシュークリームの皮だけ、クリームが入っていないお菓子でミニサイズ。ツブツブの砂糖がまぶしてあって、それがキャラメリゼしてカリカリするタイプが私は好き。誰かが差し入れしたのを見つけると、早速温かい紅茶と一緒につまむ。朝一でまだ作業する気になれない時は特にありがたい。つまり、仕事場で最初にすることは食べることか、のんびりしている。でもこの後しっかり集中するから良いのだ、朝はゆっくりはじまる。
午後になって今度は逆、必死になって作業しているのに「さあ!」みたいなかんじで即されると抗えないのがおやつの時間。作業机から引き剥がされる。フランスにも時節のお菓子があり、皆で楽しむのになんとも相応しい。1月はガレットドロワ、アーモンドパイ、2月はクレープ、4月はチョコレート。菓子で何かをお祝いしているのだけどもフランス人でも詳しく知らないことが多い。由来云々より、ポイントは季節が巡るのをお菓子で感じる事なわけだ。少しホッコリしたらエンジン全開、さらにスピードアップ!
季節のお菓子というと、本当の主役はフルーツ。果物が豊富に出回りはじめるとバカンスシーズンの到来。バカンスとは長期休暇の意味で、6月〜9月はパリからパリジャン達が消える。ビジュー業界も関係者一同、一斉に仕事は一旦横に。アトリエも完全閉鎖でお休み。その期間、なんと丸一ヶ月!「やれることはやった。後は知らない。良いバカンスを!」
フルーツたっぷりの菓子を求めてパリを脱出。しかし何と言っても菓子は地方に軍パイがあがります、パイだけに!…なんて。旦那様パトリックの故郷はフランスアルザス地方、7月頃になると山は野生のブルーベリーだらけになる。自分で穫りに行ってそれをタルト生地の上にざらっとあけて、砂糖をかけずに焼く。これが最高においし〜い。しかしこのタルト、美味しいからと言って秘密にこっそり食べたりできない。なぜなら、舌に濃いブルーの跡をしっかり残すから。さて、ここで一句。
〜アトリエに お目見えもせず 我が舌を 青く青くと 染めるばかりか
手作りの差し入れはポイントが高い。美味しいしかんじもいい。アブリコのタルトにレモンケーキ、フォンドンショコラ、サクランボのクラフティーなどなど。同じ種類のお菓子でも作る人によって味が違うのも面白い。手作りのケーキがあるとテーブルの上にナイフと伴に置かれるので好きな時に「誰がつくったの?メルシー」などと言って、皆めいめいに小鳥がパンをついばむように取って行く。
ところでケーキを置いてるのは、テーブルといっても実は線引きという道具の上だったりする。ビジューティエは欲しいサイズの径の線金をそのつど作って使う。この道具が幅20センチ、長さ180センチ程の長細いテーブル状でアトリエの真ん中にデーンと居座っている。年期の入ったかんじは渋い木製カウンターといったとこ。道具として使いたい時は文句を言わずにケーキを退かすまで。
時の経つのは早いもう12月。クリスマスイルミネーションで街は賑わいを増す。この時期人気パティシエは長蛇の列。皆マカロンを買う。人を何だかウキウキと、華やかな気分にさせる魔法を買うのだ。アトリエでもマカロンを頂く。彩り豊か、お味は洗練されて複雑。時には必ずしも美味しいとは言えない実験的なものもあるけれど、味覚を探り、そして皆でアレコレ言うのがいい。でも間違っても値段の割にたいした事ないとか言うのはナシ。確かに少々値ははるがこの魔法には、かかっておくに限るのだ。なぜなら、パリの冬は辛い。いい加減疲れた時は締め切りでも無い限り、締め切りでも無い限りスローダウンして次のバカンスまで持ちこたえたい。甘いお菓子も我らを助けてくれるはず。
おっと、そろそろ帰宅の時間ですね!またしても、作業の切りが良くないです。でも、さっさと締めて続きは明日にしときましょう。
プチフランス語講座:pâtissier [パティシエ](ケーキ屋、ケーキを作る人)
tarte aux abricots [タルト オ アブリコ](アプリコットタルト)
chocolat fondant [ショコラ フォンドン](中がトロリのチョコケーキ)
clafoutis aux cerises [クラフティー オ スリーズ ](プリンのような桜坊のケーキ)
macaron [マカロン](アーモンドを使った2枚の生地にクリーム等を挟んだ菓子)